03 「え、だ、だって敦賀さんはもう嘉月役で『DARK MOON』に出てるじゃないですか!!いいんですか、そんな事しちゃって?!」 「ええ」 「『ええ』じゃありませんってば、監督―――――っ!!!」 ほんわかと断言する緒方にキョーコは今にも詰め寄って首を振りださんばかりに混乱している。 それもそうだろう、こんな話聞いたこともない。 「敦賀君は『嘉月』を演ったんですから当然『未緒』にとっては別人であっても『嘉月』を嫌でも思い出させる存在、って事になりますよね?」 「そりゃそうでしょう。敦賀さんみたいな男の人がこの世に何人もいるとは思えませんし」 キョーコは深く深く頷いた。 神々スマイル然り、大魔王然り、ウソ・毒吐き紳士スマイル然り。 あんなスキルを全部持っている男の人が果たしてこの世に何人いるか。・・・・・いや、いないかもしれない。 そういう意味でキョーコは頷いたのだが緒方は違う意味に取った様だった。 「そうですよね〜。あんな芸術品みたいに顔の整った男の人ってなかなかいませんもんね。しかもそれが敦賀君並、ってなると更に難しいですよね〜」 「え、監督、そういう意味じゃ・・・・」 キョーコが訂正しようとしても、語りだした緒方は止まらない。 はて、緒方はこんな人物だっただろうか・・・・・。 キョーコが頭を悩ませている間に緒方の話は進み、キョーコにとっては聞き流せない一言が飛び込んできた。 「・・・けど京子さんにとっては二度目の連続ドラマ出演でしかも主役、その上恋愛ドラマ、って事になりますけど大丈夫ですか?」 「・・・・・・・・・・え?」 (れんあい、ドラマ?) 「京子さん?」 「恋愛・・・・・・ドラマ、なんですか?」 「え、はい。そうする趣向で萩月さんとも話が固まってるんですが・・・・・」 何か様子のおかしいキョーコを訝しく思ったのか心配げに緒方が顔を覗き込んできたがキョーコには最早見えていなかった。 『最上さんとならいいドラマを作れると思った』 そう敦賀さんに言ってもらえるような役者になりたいのは事実。今もなおそう思っている。 けど、 『相手役はしたくない』 そう思っているのもまた事実で。 そして、何より。 自分はラブミー部員であり、恋愛の演技に苦しむのではないだろうか。 思考の迷路に陥りかけた時、低く、温かみのある声で名前を呼ばれた。 「最上君」 それは珍しく黙って話を聞いていたローリィであり。 「君は、オーディションに落ちてもう一度俺の所に来た時、言った事を覚えているか?」 「え?」 唐突だった上、実際はそんなに前でもないが精神的には随分前のことのように感じられることを尋ねられ、キョーコは言葉に詰まってしまった。ローリィはそんなキョーコも予想済みだったのだろう。ふっと抱擁感が感じられる微笑を浮かべて言った。 「『人としての大事なモノ、取り戻すチャンスを下さい』」 その言葉にはっとする。 そうだ、確かに自分はそう言った。 「俺は、これが君の言う『リハビリ』には丁度いいと思うんだがな?しかも相手は天下の敦賀蓮だ。対決のしがいもあるってモンだろ?」 今度はおおらかな、どこか子供のような無邪気さを感じさせる笑顔で。 何だか色々と深く考え込んでいた自分が馬鹿らしくなった。 (そうだ、敦賀さんには失礼な話かもしれないけど社長さんの言う通りリハビリだと思えばいいんだ!) キョーコはくるりとローリィに向けていた顔を再び緒方に戻すと呼びかけた。 「緒方監督!!」 「は、はい!!何でしょう?!」 状況が分からなかった為、黙って聞いているしかなかった緒方だが、いきなり話を自分に持ってこられ、少々困惑している。 そんな彼にキョーコはたった一言。 「金字塔、打ち立ててやりましょーね!!」 その言葉に室内の男二人は虚を突かれたような顔をした後弾けたように笑い出した。 *** 「れ〜〜〜〜〜〜んっ」 「何ですか、社さん」 にんまりと顔を緩ませて近寄ってくる様はとても自分より5歳も年上だとは思えない。けれどそこは俳優・敦賀蓮。そんな事を思っているとは億尾にも出さずにいつもの紳士的な笑顔で出迎える。しかしそれがこんなにも脆いものなのだと、呆気なく崩れ去ってしまうものなのだと思い知ったのはそれから時間にして1秒にも満たない後のことだった。 「喜べ!!ドラマの主演の話が来てな!!」 それははっきり言ってしまえば今更だろう。今まで何度となく主演は張っているしこれは何かがあるな、と身構えた瞬間にそれは起こった。 「恋愛ドラマで、しかも相手役はキョーコちゃんだってさ!!」 (なん・・・・・だって?) ****同じ反応をしております笑。シンクロ率半端じゃないのデスヨ。 |